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- 飯田哲也「RE100への途」
- RE100への壁:再エネ価値取引市場の創設
2021.06.28
河野太郎行政改革大臣のイニシアチブで昨年12月から始動した再生可能エネルギー規制改革タスクフォースのなかで、日本の再生可能エネルギーの調達の難しさが指摘された。これを受けて、経済産業省もようやく重い腰を上げて、今年3月から見直しに着手した。
見直しの要点は、3点、ある。
第1に、すべての電力取引の裏付けとなる「電源トラッキング」を導入することだ。欧米では1990年代から実施されている仕組みで、欧州連合(EU)では2000年から各国に法制化を義務づけているのに比べると、文字どおり2週遅れで、これまで無かったことが不思議なくらいだ。まずは、FIT電源を今年度中に着手し、全電源対象に3年以内に整備するという。
第2に、再エネ価値市場の創設だ。非化石証書の中に埋もれて混乱の極みであった「再エネ価値」だけを、ようやく切り離す方向が出てきた。
そして第3に、その再エネ価値という電源価値を証明する「電源証明型証書」とし、その市場を需要家にも開いて、直接、調達できる道筋も開くという。
再エネ価値に関して、昨年、「最初のボタンの掛け違い」が2つあると論じた。1つは、エネルギー供給高度化法で定めた「ゼロ・エミッション」という括りだ。言うまでもなく、再エネと原発をひと括りにして「ゼロ・エミッション」と呼んだことの政策の間違いだ。再エネこそがこれから拡大すべき政策対象であって、政治的にも意見も立場も分かれる原発をひと括りにするべきではない、と論じたが、これが今回の「再エネ価値市場の創設」という見直しで、ようやく解消される見通しだ。
ところが、もう一つの「最初のボタンの掛け違い」である、FITにおける賦課金に相当する部分をすべて「環境価値」にしたこと、さらにはそれが「国民に帰属する」という乱暴な整理のもとで、FIT非化石証書として低炭素投資促進機構(費用負担調整機関)の帰属にしてしまったという「間違い」については、いまだに残ったままだ。このため、アップル社が日本で苦労したように、例えば、新しく創設される「再エネ価値市場」でFIT電源を買っても、CO2削減を主張するには、Jクレジット市場などで引き続き調達しなければならないことになる。
しかも、新しく始まるFIP(フィード・イン・プレミアム)ではCO2価値は再エネ発電者に帰属するというのだから、ますます混乱する。FITについても、最初から再エネ発電者に帰属するように見直せば、Jクレジットなどを介在する余地もなく、「再エネ価値市場」の制度の見通しがはるかにすっきりとする。
制度見直しの道のりも、未だに半ばである。
飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ
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