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- RE100への壁(その1):容量市場
2021.04.05
この2月、延岡市が計画している自治体新電力の立ち上げ計画に対して、九州電力が「容量市場への容量拠出金が多額になり赤字になるから止めた方がよい」と、独自の試算をもとに延岡市内の主要団体に説明して見送りを働き掛けていたという「事件」があった。これに対して、読谷山洋司延岡市長は、「電力システム改革に真っ向から反する」と経産省などに調査を訴え、電力・ガス取引監視等委員会が3月29日に九州電力に対して業務改善指導を実施することで、いちおう落着したように見える。ただし、その九州電力の説明の余波もあってか、市の計画は3月議会で否決されたほか、九州電力が子会社だが守秘義務(ファイアウォール)のある九州電力送配電から、他の電力小売会社の情報を入手した疑惑が濃厚であり、この先もこの問題は火種を残したまま、続くものと見られる。
さて、この「容量市場」は、日本でRE100を実現していく上での「象徴的な壁」として登場した。
そもそも「容量市場」とは何か。昨年7月に入札が公募され、その結果が9月に公表されて、メディアでも突然騒ぎ始められたが、未だにエネルギー問題に詳しい国会議員も「よく分からない」という。市場を設けた電力広域的運営推進機関(OCCTO)は「将来にわたる供給力(kW)を効率的に確保する市場」と説明しているが、意味不明だ。
海外での歴史をひも解くと、電力自由化と発送電分離が進んだ1990年代末に、米国で導入された仕組みが起源となる。垂直統合されていたそれ以前と異なり、ピーク時や非常時の「いざ」という時のための電源への投資や新設が、電力自由化と発送電分離によって進まなくなった。それを補う仕組みとして、米国東部州で「容量市場的な仕組み」が導入された。
その後、2010年前後に、欧州を中心に風力発電と太陽光発電、いわゆる「自然変動型電源」が急拡大してきた。これは促進政策の結果であり、気候変動対策やさまざまな社会目的からも望ましい「急拡大」である。ところが、日照や風によって出力が変動する風力や太陽光をもっと高い比率で電力系統に受け入れるためには、その出力変動に対応できる電源が必要となる。そのための投資が必要なのだが、燃料費がタダの風力や太陽光が増えることで電気の卸値が下がってきたため、その投資が期待できないというパラドックスに直面することになった。むしろ、ピーク時や非常時を担っていた天然ガスなどの電源がますます電力市場から押し出されることになった。そこで「容量市場的な仕組み」には、ピーク時や非常時の確保に加えて、電力系統の柔軟性を高めるために蓄電池や需要側管理(DR)などが奨励され、さらには気候変動目標に統合されるように、石炭火力など炭素排出量の規制も設けられることとなった。なお、「容量市場的な仕組み」にはさまざまな類型があり、日本で導入された「容量市場」はその一類型に過ぎず、総称して「容量メカニズム」とよぶ。
ところが日本の容量市場は原発と石炭の両方を認めている。昨年9月の落札結果では、日本の電力市場の1割近い1兆6千億円規模の負担増となるが、大手電力会社は自社の小売部門(右手)から発電部門(左手)への負担の移転なので変わらないが、新電力は約2円/kW時を正味負担することになるため、多くの倒産・廃業が心配される。
このままの容量市場では、原発や石炭と大手電力会社の独占が維持され、近年一気に拡がった新電力や自然エネルギーが封じ込められてしまう。本来なら自然エネルギー拡大のために制度設計されるべき容量メカニズムも、独占と原発維持に活用され、RE100の障害にしかならない「日本型容量市場」は抜本的な見直しが必要だ。
飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ
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