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飯田哲也「RE100への途」

世界のEV化と「酸っぱいブドウ」

2024.05.30

お腹を空かせた狐が高い所に実っているブドウに届かず「あんな酸っぱいブドウは食べない」と負け惜しみを言うイソップ物語の「酸っぱいブドウ」はよく知られている。現在、日本で電気自動車(EV)を巡って起きている現象もこの「酸っぱいブドウ」そのままだ。

■世界のEV化:加速するトレンドと日本の遅れ

世界中でEVへの移行が加速している。なお一般的にEVとは、バッテリーのみの電気自動車(BEV)を中心とし、プラグインハイブリッド車(PHV)も含む。2023年には世界の新車販売台数の約16%がEV(BEVは11%)で、2024年第1四半期には19%(BEVは13%)に成長した。中国(EV50%超、BEV37%)を筆頭に、タイ・豪州・ブラジルでもEV化が進んでおり、IEAも2024年には世界全体で20%前後のEV成長を予測している。

 


しかし、日本は大きく取り残されている。日本のBEV新車販売比率は2023年で2.2%、2024年第1四半期には1%台へと「減速」し、世界の急拡大トレンドから遅れている。これは日本のEV普及の遅れと自動車産業のEV転換の遅れを意味する。
 


 

■EV化がもたらす自動車産業の変革

しかも日本では、「EV減速説」が広く流布し、さらには「EV否定論」も根強い。さらには最高益を計上したトヨタやホンダを見て、ハイブリッドや水素を含む「マルチパスウェイが正しかった」「EVは終わった」といった発言も、メディアやネットで散見される。明らかに世界の現実も大きな潮流が見えてないどころか、日本経済の屋台骨を支える自動車産業に100年に一度の大変革をもたらそうとしているEV化から、目を背けている。

多くの人が理解していないと思われるのは、今起きていることは、単なる「電動化」ではないということだ。具体的には、以下の3つの革新が相前後して起きているのだ。

① EV化:従来のガソリンエンジンから電気モーターへのパワートレインの転換は、自動車産業の構造を根底から変える。エンジンや排気システムなどの部品は不要となり、新たな部品や技術の開発、サプライチェーンの構築が必要となる。

② ソフトウェア化: ソフトウェアによって制御される「Software Defined Vehicle(SDV)」であり、「モビリティのiPhoneモーメント」と呼ばれる。車載ソフトウェアは、自動運転、コネクテッドカー、OTA(Over-the-Air)アップデートなど、様々な機能を実現し、自動車の価値を高める。

③ 自動運転化: AI技術の進化に伴い、「モビリティのChatGPTモーメント」と呼ばれる自動運転技術は、テスラを筆頭に急速に進歩している。自動運転車は、安全運転、交通効率向上、新たなモビリティサービスの創出など、社会に大きな影響を与える。

テスラや中国企業が引き起こしている原動力は、技術革新とコストダウンによるポジティブフィードバックである。蓄電池技術と自動車製造技術の革新が急速に進み、BEVのコストは急速に低下している。同時に、走行距離、充電時間、デザイン、安全性といった性能面において、従来のガソリン車との差は縮小し、一部ではすでに凌駕している。日本が得意としてきた製造技術でさえ、例えば、テスラが生み出したギガキャスト(アルミ合金一体鋳造)をまずは中国勢が模倣し、日本も何年も遅れてようやく導入しようとしているのが現状だ。

加えて、すでにテスラと中国勢がすでに起こした「モビリティのiPhoneモーメント」と、テスラが今年にも実現しようとしている「モビリティのChatGPTモーメント」は、いずれも日本や欧米の既存の自動車メーカが、完全に出遅れてしまった変革である。
 

■EV化がもたらすエネルギー・気候変動対策への貢献

加えてEV化は、エネルギー・気候変動、雇用、産業政策といった、人類社会全体の未来を左右する重要な要素が絡み合った、歴史的な転換期である。EV化は、自動車交通による化石燃料消費の削減と温室効果ガスの排出削減に大きく貢献する。自動車交通は世界全体の石油消費の約25%を占め、エネルギー由来のCO2のおよそ10%と非常に大きな割合を占めている。EV化は、気候変動対策の有効な手段の一つとして、地球温暖化防止に大きく貢献する。

さらに、EV化は、再生可能エネルギー(再エネ)の利用拡大にも繋がる。再エネ発電は天候に左右されるため、安定供給が課題となるが、EVは蓄電池を搭載しているため、再エネ電力を蓄えて利用することができる。特に、太陽光発電や風力発電といった、発電量が時間帯によって変動する再エネとの組み合わせは、エネルギー利用の効率化、安定化に繋がり、再エネ導入の促進に大きな役割を果たす。

近年、注目されている「セクターカップリング」という概念は、電力、熱、交通など、エネルギー利用のすべての分野を再エネ電力と繋ぎ、エネルギー効率を高め、脱炭素化を進める考え方である。EV化は、再エネ電力とモビリティを統合することで、セクターカップリングを具体的に実現しつつある。
 

■日本が直面する4つの危機

EV化への遅れは、4つの危機を招きかねない。化石燃料依存度が高い日本にとってエネルギー危機、気候変動対策の遅れ、EV化への対応を遅らせることによる雇用調整の遅れや雇用不安の拡大、そして産業競争力の低下の危機である。

日本のEV化は、単なる自動車の電動化ではなく、エネルギー・気候変動、雇用、産業構造といった社会全体に大きな影響を及ぼす、歴史的な転換期である。1970年代の石油危機と大気汚染を乗り越え、自動車産業を躍進させた歴史を教訓とし、今こそ日本のリーダーシップを発揮する時である。

政府は、EV化を促進する具体的な政策を策定し、強力な財政支援、税制優遇、規制緩和、インフラ整備など、あらゆる手段を講じるべきである。特に、充電インフラの整備は、EV普及のボトルネック解消に不可欠であり、官民連携による迅速な整備を進める必要がある。

また自動車メーカーも、従来の技術にとらわれず、新たな技術開発、生産体制の構築、サプライチェーンの革新など、積極的な取り組みを進めるべきである。特に、ソフトウェア開発、AI技術、バッテリー技術など、新たな分野への投資を強化し、競争力を強化する必要がある。

加えて、消費者を含めた社会全体の意識改革が重要である。EVの性能、価格、利便性に関する情報を提供し、消費者の理解と購買意欲を高める必要がある。また、環境問題やエネルギー問題に対する意識を高め、持続可能な社会への移行を促す必要がある。

EV化は、日本のエネルギー・気候・雇用・産業政策の要石であり、日本の未来を創造する重要な課題である。政府、産業界、そして国民が一体となり、EVへの全面的かつ急速な移行を進めることで、持続可能で豊かな社会を実現することができる。


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