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- 環境省・脱炭素先行地域の執行率が低い理由(その2) 〜大企業依存という落とし穴ともつれ合う縦割り官僚主義〜
2024.01.30
2022年度からの環境省・脱炭素先行地域事業の執行率が低い(※1理由について、前項に引き続き考察する。前項では、(1)ファイナンスに関するミスマッチと、(2)推進力としての地域エネルギーハブ(事業体)が脱炭素先行地域事業の多くで欠落していること、その歴史と背景、必要性・重要性について述べた。また後者については「地域新電力」との誤解・混同が見られることも指摘した。本稿では、引き続いて2点の大きな問題点として、執行体制の課題(自治体執行と大企業依存)と縦割り官僚主義の課題を論じる。
多くの脱炭素先行地域事業では、5年間で50億円という大規模で、2/3〜3/4という補助率ということもあって、これを単純に自治体が執行する「手厚い補助金」として活用している事例が見られる。しかし、少し考えて見れば分かるが、自治体が補助金支給を呼びかけるだけでは、脱炭素先行地域で意図した一定地域の再エネ電力100%の実現はおよそ不可能である。
もう一つ、第2回目から目立って増えてきた傾向は、旧一般電気事業者(一般送配電事業者を含む)や超大手企業との協働事業である。これは、もともと地方自治体が総じて大手企業に依存する傾向に加えて、環境省が第1回目の執行率の低さなどへの反省から事業実現率を重視してそういう計画の採択を優先したという2つの要素が重なったものであろう。しかしこれは「大企業幻想」である。
最近、脱炭素先行地域が採択された自治体でヒアリングした。その自治体の計画は、旧一般電気事業者を含む名だたる大企業が共同提案者となっており、各大企業がそれぞれ分担して事業を実施するという事業構造となっていた。一見、それぞれの大企業が事業実施をコミットしているのだから大船に乗ったように見えるのだが、ことはそう簡単では無い。各大企業は、共同提案者ではあるものの、事業実施の責任は負っていない。事業性が成立しなければ当然実行されない。そうした複数の大企業群に事業を実施してもらうため、その自治体担当者の皆さんはそれらの調整や会議だけで時間と労力を費やし疲弊の色が見える。つまり、脱炭素先行地域実現の責任を負う自治体はエネルギー事業実施をせず、エネルギー事業実施をする大企業群は脱炭素先行地域実現の責任は追わないという、責任が拡散した構図となっている。しかも、それぞれの組織内で次項で指摘する縦割り官僚主義があり、それらがもつれ合って混乱し難航してゆく。
環境省・脱炭素先行地域事業の執行率を下げているもう一つの要因に、縦割り官僚主義がある。これは、環境省という国の組織に加えて、各地方自治体内部、そして大企業や地方銀行など保守的な組織それぞれの内部にあり、それらがもつれ合っている要素がある。
環境省に関しては、2023年5月に選定自治体21団体が要望書を西村環境大臣あてに要望書を提出しており、そこで要望された26項目に端的に表れている。逐一は触れないが、一つは省庁間の縦割りを交付金(補助金)に緻密かつ厳密に適用してくることだ。たとえば、交付金原資がエネルギー特会であることから、バイオマスボイラー建屋やソーラーガレージの架台などは国交省に関わるという理由で補助対象外とされる。また、系統連系が最大2MW制約、地域外の売電を30%未満、蓄電池容量の制限、バーチャルPPAを対象外とするなど霞ヶ関での経産省とのデマケが補助金に細かく適用される。また、新規事業なのでさまざまに変更しうることは当然なのだが、計画変更が厳しく禁じられる上に、5年間事業であるのに単年度での交付決定から検収までの時間的な制約が厳しい。
また、これを受ける自治体側も、計画づくりには共同事業者の参画と協力なしには事業化計画はできないのだが、いざ実施しようとすると従来の慣例から入札実施に異常に拘る。手間と時間を掛けて「入札」を実施するものの、実態は「落とし所」が決まっている。これを官製談合やフェイク入札として批判するのではない。むしろ、計画提案から事業者の力が必要なので、最初から5カ年のプロポーザル事業として割り切って、見せかけだけの「入札」などは辞めた方がよい。もちろん、原資を税金とするため、その効果的・効率的な利用の説明責任は求められる。これは、地域に便益が還元される構図であること、事業の自立的な継続性が担保されること、市民に情報公開されることなどを持って説明責任とすればよいのではないか。
事業を実行する主体が大企業となると、その内部での縦割り官僚主義の壁にぶつかるケースがある。なぜなら、脱炭素先行地域で実現しようとしている事業は、新しいスキームの新しい事業となるため、大企業といえども、新規事業を立ち上げる困難さがあるからだ。それを避けるためには、前号で論じた「地域エネルギーハブ(事業体)」が必要なのである。その場合、大企業は彼らが専門とするサービスを提供すればよく、支援側に回れば、スムーズに事が運ぶようになる。
※1 環境省「脱炭素先行地域令和4年度フォローアップ」 https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/#followup
環境省に関しては、2023年5月に選定自治体21団体が要望書を西村環境大臣あてに要望書を提出しており、そこで要望された26項目に端的に表れている。逐一は触れないが、一つは省庁間の縦割りを交付金(補助金)に緻密かつ厳密に適用してくることだ。たとえば、交付金原資がエネルギー特会であることから、バイオマスボイラー建屋やソーラーガレージの架台などは国交省に関わるという理由で補助対象外とされる。また、系統連系が最大2MW制約、地域外の売電を30%未満、蓄電池容量の制限、バーチャルPPAを対象外とするなど霞ヶ関での経産省とのデマケが補助金に細かく適用される。また、新規事業なのでさまざまに変更しうることは当然なのだが、計画変更が厳しく禁じられる上に、5年間事業であるのに単年度での交付決定から検収までの時間的な制約が厳しい。
また、これを受ける自治体側も、計画づくりには共同事業者の参画と協力なしには事業化計画はできないのだが、いざ実施しようとすると従来の慣例から入札実施に異常に拘る。手間と時間を掛けて「入札」を実施するものの、実態は「落とし所」が決まっている。これを官製談合やフェイク入札として批判するのではない。むしろ、計画提案から事業者の力が必要なので、最初から5カ年のプロポーザル事業として割り切って、見せかけだけの「入札」などは辞めた方がよい。もちろん、原資を税金とするため、その効果的・効率的な利用の説明責任は求められる。これは、地域に便益が還元される構図であること、事業の自立的な継続性が担保されること、市民に情報公開されることなどを持って説明責任とすればよいのではないか。
事業を実行する主体が大企業となると、その内部での縦割り官僚主義の壁にぶつかるケースがある。なぜなら、脱炭素先行地域で実現しようとしている事業は、新しいスキームの新しい事業となるため、大企業といえども、新規事業を立ち上げる困難さがあるからだ。それを避けるためには、前号で論じた「地域エネルギーハブ(事業体)」が必要なのである。その場合、大企業は彼らが専門とするサービスを提供すればよく、支援側に回れば、スムーズに事が運ぶようになる。
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