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飯田哲也「RE100への途」

RE100と「環境価値」の混乱を超えて(その1)

2020.07.25

Apple社が2030年までに全てのサプライヤーを含めてカーボンニュートラルにするロードマップを公表した※1。すでに自社でRE100を達成したApple社の、次の大きな目標となる。そのApple社がRE100を達成するのにもっとも苦労したのが日本だという話は、以前に紹介したとおりだ※2このように、非化石証書のトラッキングは、事実上Apple社の要請に応えて整えられたと言ってもよいわけだが、いよいよ今年から非化石証書の本来の趣旨であるエネルギー供給高度化法に適合するための取引が始まっている。

ちなみに、エネルギー供給高度化法とは、もともと2009年に制定されたエネルギーの安定供給と環境負荷の低減を目的とした法律だ。その後、2016年に改正され、2030年度のエネルギー基本計画の目標に対応し、小売電気事業者のゼロエミッション電力の割合を44%にするという目標が義務付けられた。それを達成するための手段としての利用が、非化石証書に期待されている本来の役割だ。その内容を解説する前に、まず以下の図を見てほしい。

 

これをすぐに理解できる人がいったいどれだけいるのだろうか。「実質再エネ」「実質ゼロエミ」とは何か(日本語としてはそれぞれ「みなし再エネ」「みなしゼロエミ」が正しいと筆者は考える)。
そもそも「混乱の極み」というのが率直な感想ではないか。さらに、卒FIT電源や非FIT電源が登場している今、「非FIT非化石証書」なる用語や定義も登場している。
卒FIT電源は今のところ、FIT期間が10年だった家庭用太陽光に限定されるが、非FIT電源には、水力などもともとFIT対象ではなかった再エネとFITに頼らずに低コストで作った新規の太陽光発電などが混在し、それらが同じカテゴリー・同じ環境価値扱いでよいのかの疑問もある。

全体として、訳がわからないというのが正直な感想だろう。もちろん、RE100ビジネスを行う上では、この「混乱の極み」の政策にも、バカ正直にお付き合いするしかない。しかし結論を先取りして言えば、これは「政策の失敗」である。日本以外の国で、電源の環境価値を巡ってこんな混乱を引き起こしている国は見たことがない。まさに「ガラパゴス」なのだ。「最初のボタンの掛け違い」に立ち返って、イチから見直すほかないだろう。

「最初のボタンの掛け違い」の第1は、エネルギー供給高度化法で定めた「ゼロ・エミッション」という括りだ。言うまでもなく、再エネと原発をひと括りにして「ゼロ・エミッション」と呼んだことの政策の間違いだ。再エネこそがこれから拡大すべき政策対象であって、政治的にも意見も立場も分かれる原発をひと括りにするべきではない。
「最初のボタンの掛け違い」の第2は、FITにおける賦課金に相当する部分をすべて「環境価値」にしたこと、さらにはそれが「国民に帰属する」という乱暴な整理のもとで、FIT非化石証書として低炭素投資促進機構(費用負担調整機関)の帰属にしてしまったことだ。

次回以降、これら2つの「最初のボタンの掛け違い」をどのようにほぐして、混乱を解消してゆくべきなのか解説する。同時に、旧日本軍から新型コロナ対策でも見られた日本中枢の意思決定にありがちな「失敗の本質」を読み解く予定だ。最初に「本質的な大間違い」をそのままにして、その後を緻密かつ膨大な努力で埋めようとするのが共通パターンの一つなのだ。


※1 IT Media 「Appleが“地球の未来を変える2030年までのロードマップ”を公開、ゼロを掲げる理由」2020年7月22日https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2007/22/news086.html

※2 https://www.re100-denryoku.jp/blog/special_feature/197.html

 

 



飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー 

国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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