飯田哲也「RE100への途」

飯田哲也　環境エネルギー政策研究所　所長

世界が再エネ100へ加速している状況を示す報告が相次いでいる。1つは国際エネルギー機関（IEA）による「再生可能エネルギー市場アップデート」(2023年6月)で[1] 、世界全体で440〜500GWの再エネが追加されると予測している。IEAは、2022年12月に類似の報告を公表しているが、[2]わずか半年間で予測を大幅に上方修正した（図1）。

図1　わずか半年で予測を上方修正したIEA

　　昨年、世界全体で220GW設置された太陽光発電は、今年は中国だけで200GW越えが予測されており（図2）、欧州や米国、その他世界の拡大傾向から見て300GW越えは確実と見られる。昨年、世界全体で75GW設置された風力発電（洋上風力を含む）も今年は120GW越え、それ以外の再エネ（水力発電やバイオマス発電など）を加えると、440GWは今年世界で達成可能な最低限のベースとして見てよいだろう。

図2　急拡大する中国の太陽光発電

4月にサイエンス誌に太陽光に焦点を充てた論文が掲載された。[3]昨年末で累積1TWを越えた太陽光発電は、これから毎年の市場も3TW規模へと10倍増し、累積では100TWへと100倍増してゆくという報告だ（図3）。

図3　TWスケールに拡大する太陽光発電

さらに、世界的に加速度的に進む電気自動車(EV)の最大の市場は中国である。今年、第1四半期は乗用車市場全体では前年比▲4.3%減・526万台と減少したが、EVなど新エネルギー車は26%増・159万台と、新車販売のシェアが30%(うちバッテリーのみのBEVが73%)を越えた。

EV化が進む中国で、事実上、売るタマがないトヨタ、ホンダ、日産など日本勢は同期▲31.9%減と壊滅的で、長く中国で王者として君臨してきたフォルクスワーゲンも前年同期比▲14.5%減の43万台、ドイツ勢全体は▲8.9%減となった。米国勢▲8.8％、韓国勢▲6.7％、フランス勢▲26.5％と海外勢が全て落ち込んだ。

そうした中、中国勢は昨年3月に化石燃料車（ICE）の生産を廃止してEVのみに絞ったBYD（自ら生産する蓄電池でもCATL、LGに次ぐ世界3番手）が前年同期比93%増で初めてトップに立った（図4）。[4]

加えて、中国は自動車輸出でも第1四半期に百万台を越え、ついに日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となった。

図4　中国で進むEV化と自動車産業下克上

その結果、いよいよ中国では、炭素排出ゼロが現実味を帯びてきた。中国は確かに原発も維持しているが、ほとんど伸びておらず、脱炭素の主役は再エネとEV、そして蓄電池である。こうして中国は、再エネ（太陽光、風力、蓄電池）やEVの産業化でも成功し、自らの脱炭素も道筋を着け、しかもそれらを輸出することによる世界の脱炭素へも貢献している。

図5　炭素排出ゼロが見えてきた中国

　　こうした世界のトレンドを俯瞰した上で、自らを振り返ってみれば、その全てにおいて「敗戦」してしまった日本という現実がある。日本の置かれている状況は、予想をはるかに超えて厳しいものがある

[1] IEA "Renewable Energy Market Update" June 2023 https://www.iea.org/reports/renewable-energy-market-update-june-2023?fbclid=IwAR2Hi6IDLvsCtmjJKMpUb6YpabGJKe7F95s8BXI4wrsaiC01XrLFUhaxc64
[2] IEA "Renewables 2022" Dec.2022  https://www.iea.org/reports/renewables-2022
[3] Nancy M. Haegel et.al., “Photovoltaics at multi-terawatt scale: Waiting is not an option” SCIENCE 6 Apr 2023 Vol 380, Issue 6640 pp. 39-42 DOI: 10.1126/science.adf6957 https://www.science.org/stoken/author-tokens/ST-1121/full
[4] CnEVPost, BYD posts over 400% year-on-year Q1 profit growth, Apr.27, 2023: https://cnevpost.com/2023/04/27/byd-over-400-yoy-q1-profit-growth/

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