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- 真のGX戦略は地域から
2023.03.31
飯田哲也 環境エネルギー政策研究所 所長
昨年来、1970年代を彷彿とさせる「エネルギー危機」が世相を騒がせている。生活に直結する「電力不足問題」やエネルギー価格の高騰がメディアを賑わせているが、より深刻な危機として、私たちの文明の存続を危うくしうる気候危機が横たわっている。これに対して、岸田文雄首相率いる日本は、「GX戦略」と称して、危機に煽られた国民の不安に乗じて原発推進姿勢を明確にした。本来、GXは「グリーン・トランスフォーメーション」の英語略のはずだが、これでは「ゲンパツ・トランスフォーメーション」、あるいは「ガラパゴス・トランスフォーメーション」の省略形と疑わざるを得なくなる。
日本は2030年までに温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年までに正味ゼロの目標を掲げている。岸田文雄首相は、自ら官邸に設置したGX実行会議を足場に、原発再稼働はもとより、第6次エネルギー基本計画にも書けなかった原発新増設、小型革新炉や核融合炉の開発など原発全部盛りを中心とする「GX実現に向けた基本方針」を23年2月10日に閣議決定した[注4]。内容は、「徹底的な省エネ」「再エネ主力電源化」「カーボンプライシング」と環境的な言葉は踊っているものの後述するとおり本質を外しており、手続きもアリバイ的なパブリックコメントだけで国民の熟議もなく、国会審議もほとんどないまま強行している。
目を凝らしてみると、第2次安倍晋三政権当時の「経産省内閣」がさらに変質して再来していることが分かる。東京電力の執行役員も務めた嶋田隆元経産省事務次官が首相秘書官として総指揮監として全体を差配している。たとえばGX実行会議で経産大臣が「原発再稼働などで遅滞解消のための政治決断」を促し、これに呼応して岸田首相が「政治決断」を発言するサル芝居を演じている。
GX戦略も「いかにも経産省的」で、間違いなく失敗するだろう。その第1は、「威勢の良い言葉」が踊っているものの、いずれも緻密な検証を欠いており、合理性や原理原則や現実からも乖離していることだ。原発全部盛りが象徴だ。それに加えて、「20兆円規模のGX経済移行債」「成長志向型カーボンプライシング」「GX推進機構の創設」など、巨額資金を動かす構想が提示されていることが第2の「いかにも経産省的」な失敗要素だ。なぜならベースとなる政策や市場が第1の要因で空疎で根腐れしたままであるところに、産業革新機構やクールジャパンなど死屍累々の「官民ファンド」の構図そのままであるからだ。税金が食い散らかされた挙げ句に破綻する未来が見える。
削減目標が低いだけでなく、水素や二酸化炭素回収利用(CCUS)など実用段階にない不確かな技術や老朽化の進む原発などに多くを依存し、国際的な石炭火力全廃要請に抗う姿勢などが批判されている。
根本的な原因は、再エネ大転換やモビリティ大転換から日本が大きく取り残されていることにある。風力発電は、歴史的に社会政治的な要因によって、諸外国に例を見ないほど普及が抑制されてきた。太陽光発電も、2012年に施行された固定価格買取制度(FIT)がもたらした「太陽光バブル」への拙速な事後対応が相次ぎ「政策カオス」となっており、今や市場崩壊を起こしている。太陽光への過剰な忌避感が漂う日本のエネルギー政治行政の中枢には、再エネ100%へのコンセンサスどころか、否定的な理由(土地が狭い、エネルギー消費密度が高い)が声高に語られる。営農型太陽光発電は、土地の立体的な利用のメリットと膨大なポテンシャルから世界的にソーラー立地での優先的な考えとして関心が高まっている。ところが先駆者の日本では「異物視」しており、長期の営農継続を義務づける「ムリゲー」が求められるために市場が広がらない。
太陽光発電と風力発電という自然変動型の再エネを中心に据える上で必要となる、最新の系統技術やデジタル化などに支えられた電力市場の整備で日本は立ち遅れている。この10年間に進めてきた電力システム改革電力市場改革にも「失敗」している。電力危機はその実例である。本来独立すべき送電部門(TSO)を子会社にするという中途半端な発送電分離と電力市場設計の失敗で、市場メカニズムが機能しない「電力市場」になってしまっている。それが2020年末からの卸電力価格高騰問題を招いたが、未だに解決のメドが立っていない。
再エネ100%への方向性は科学的にも世界的なトレンドとしても明らかだが、日本は背を向けている。国のこうした姿勢に対して、地域や民間の取り組みが突破口になるのではないか。東京都は、22年12月、新築一戸建て住宅などに太陽光パネル設置を義務付ける条例を可決した。川崎市も後に続こうとしている。環境省は、30年までに百の脱炭素地域を創ることを目標に、巨額予算を計上して「脱炭素先行地域」という野心的な公募を22年から開始した。民間レベルでも、世界的なRE100に参加する動きが広がるとともに、自ら再エネ電源を確保する「PPA」(再エネ電力の直接購入の略称)への取り組みが急速に広がっている。
「天下の大事は必ず細かきよりる」(老子)という故事のとおり、こうした一つひとつのボトムアップの取り組みの積み重ねこそ、日本全体のエネルギー転換の突破口となるのではないか。
※1.「GX 実現に向けた基本方針〜今後10年を見据えたロードマップ」首相官邸(2023年2月10日)
飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ
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