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飯田哲也「RE100への途」

RE100は世界の科学者の「常識」になった

2022.11.30

今年7月末に、LUT大学(フィンランド)のクリスチャン・ブレイヤー教授を筆頭とする国際的に主要な世界9カ国から15の大学・研究機関・23名以上の研究者が、過去に実施された何百もの科学的研究をレビューした共同研究の成果として、2050年までに世界は再生可能エネルギー100%(RE100)に到達でき、それが最も経済的で、しかも1.5度目標に間に合う可能性があるという見解が、世界の科学者のコンセンサスとなっていると発表した(注1,注2)。

この再生可能エネルギー100%の新しいエネルギーシステムの重要な柱は、太陽光発電と風力発電、エネルギー貯蔵、セクターカップリング、「電力からX」(再エネ電力を温熱や水素に転換する意味)と「水素からX」(再エネ由来のグリーン水素をアンモニアやメタンなどに転換する意味)による、全てのエネルギーと産業部門の電化となっている。

主著者の一人であるシドニー工科大学(UTS)のスヴェン・テスケ准教授は「世界全体を再生可能エネルギー100%供給が、技術的にも経済的にも可能であることを科学は明確に示している。次のステップは、未だに「時代遅れ」のエネルギーシナリオ研究に基づいている気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書に私たちの研究を含めることだ」と述べた。

テスケ准教授が「時代遅れ」と呼ぶ理由がある。再生可能エネルギー100%システムの研究は、1970年代の初期からわずか10年前頃まで、強い懐疑論に遭遇したからだ。その後、現在は、エネルギー研究で世界をリードする研究者コミュニティでは、「再生可能エネルギー100%」を支持する見解は大きな勢力を持つようになったが、国際エネルギー機関(IEA)やIPCCなどでは、未だに懐疑論が根強い。こうした組織は「旧い考え」が根強く残ることが理由で、これをこの研究では「組織的慣習」と呼んで批判している。

RE100システムの研究は、毎年30%増の勢いで世界的に拡大しており、それが政策目標を高め、それがまた新しい研究につながる好循環を生んでいる。RE100を実現し加速するための新しい研究テーマとしては、セクターカップリングやスマートエネルギーシステム、材料の重要性、年間でのエネルギー資源変動、システムの信頼性とセキュリティなど、さまざまな研究分野が緊急に必要とされている。

同じく主著者の一人であるオールボー大学(デンマーク)のブライアンVマティーセン教授は「技術はすでにそこにある。すでにいくつかの地域や国でも、実質的で経験的な証拠が提示されている。エネルギー効率、電化、地域熱供給、電化燃料などの相乗効果を利用することができると、確かに証明されている。今こそ、意思決定者は化石燃料へのすべての新規投資を停止し、再生可能エネルギーベースのスマートエネルギーシステムの構築に集中する必要がある」と述べる。

これらの企業やNGO、政府は、国民の関与を促進するために協力する必要があり、これは分散型で持続可能なエネルギーシステムを実装するために不可欠であるとする。世界中のさまざまな文脈や文化的伝統に合わせて、地域の所有権、ガバナンス、市場モデルを開発しなければならないと研究は述べている。つまりRE100は、もはや「できるかできないか」ではなく「どのような形で実現するのか」が問われる段階に入っているということを意味する。
 

注1.LUT大学プレスリリース 2022年8月9日
https://www.lut.fi/en/news/researchers-agree-world-can-reach-100-renewable-energy-system-or-2050?fbclid=IwAR0P9UNXg6wHpttKRxtDlTfehZOTT21rooJuCu_-6ojzfNh_2pPMYerCKMY

注2.元論文
Christian Breyer, et.al., “On the History and Future of 100% Renewable Energy Systems Research”, IEEE Access ( Volume: 10), 25 July 2022

 



飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー 
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ

 

 

 

 


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