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- RE100への壁(その5):グリーンVSグリーン
2022.05.27
RE100に立ちはだかる5つめの壁は、自然保護団体からの反発だ。
本来、気候危機や脱原発への最大の解決策として世界中の環境保護団体(グリーン)が支持する太陽光発電や風力発電に対して、いくつかの自然保護団体(グリーン)からの反発がり、「グリーンvsグリーン」と呼ばれる不幸な対立構図だ。前者は、人類の持続可能性のためのエネルギー転換を求めるグリーンだが、後者は地域や身近な環境を大切にしようとするグリーンで、見ている時間軸や空間的な拡がりがすれ違っている。
これらの「グリーン対立」の溝は、埋めるべきであり、また可能である。文明で利用するエネルギーをすべて太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーに転換すること=RE100は、人類の持続可能性ための必要不可欠(=必要条件)である。しかし、再生可能エネルギーであれば直ちに持続可能というわけではない(≠十分条件)。例えば、熱帯雨林の破壊や食料と競合するバイオマスなどが典型例だ。
日本では、歴史的に土地利用計画の規制が緩い上に、森林や山地は自然保護よりも開発が優先されてきた。森林や共有地を維持してきた地域での共同管理も、林業の衰退や過疎化なども重なって崩壊するなかで、ゴルフ場やリゾート開発などで乱開発が繰り返されてきた。そこに、2012年からのFIT法で、太陽光発電事業が全国各地の森林で計画された。これは、日本の土地利用規制の緩さと経済産業省によるFIT法の制度設計の失敗(FITを導入した世界100カ国で唯一認定時の買取価格をずっと維持するという大失敗)との「共同正犯」である。というのも、太陽光発電はその後10年で10分の1というペースでコストが下がってきたのだが、買取価格を初期の計画認定時で維持すると、待てば待つほど真の事業費が下落するために「あぶく銭」が生まれ、山を削る土木費の捻出が容易になってしまったから。経産省がFIT法の本質である、技術学習効果を理解しなかったことが真の原因である。
他方、太陽光発電による森林破壊に心を痛める自然保護団体や地域社会の一部には、反対がエスカレートして、「敵の敵は味方」という考えで石炭火力や原発を支持する団体と共闘も見られたり、荒唐無稽で非科学的な陰謀論に走る人たちさえ見かける。さすがにこれは、上記の「必要条件」を無視したトンデモな主張と退けるしかない。
本来であれば、土地利用計画をしっかり作ること、そこで自然保護地域や景観保護地域は予め除くこと、計画や事業に地域コミュニティの参加を義務づけること、FIT法の価格は計画時ではなくすべての規制をクリアした段階で決まるようにすべきであること、他方で普及の障害になっている様々な規制を簡素化・迅速化して、規制リスクを下げることなど、ゼロから見直す必要がある。
そうすることで、後者のグリーン(自然保護や景観保護、災害防止や地域参加など)も満たす再生可能エネルギー、とくに太陽光発電と風力発電の開発は十分に可能である。これこそが、本来の持続可能性の必要十分条件を満たすRE100のエネルギーとなる。
飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ
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