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- RE100を加速させるロシアのウクライナ侵攻
2022.03.31
2月24日、ロシアが一方的にウクライナへの軍事侵攻を開始して1ヶ月が経過した。ロシアは世界最大の石油輸出国で、天然ガスや石炭も大量に輸出しているため、このロシア侵略によって「脱炭素が停滞する」「脱原発を延期すべきだ」「原発の再稼働が必要だ」といった声も聞こえてくるが、実態は全く異なっている。再エネと脱炭素への加速が起きているのだ。
この間、ウクライナのゼレンスキー大統領が、欧米諸国での議会オンライン演説に相前後して、日本でも国会でオンライン演説も行われた。国連安全保障常任理事国であるロシアが、全世界の目の前で白昼堂々と行った「20世紀型」の軍事侵略は、どのような歴史的な経緯があろうとも、またどのような詭弁を弄したとしても、ロシアに全面的な非があることは論を待たない。 日本を含むG7や豪州、韓国など世界の主要国は、ロシアへの経済制裁を発動し、国連でのロシア非難決議も圧倒的な賛成多数で採択されている。
エネルギー面での最大の関心事は、石油と天然ガスの世界需給への影響だ。ロシアは世界の需要の約8%を供給する世界最大の石油輸出国で、天然ガスと石炭を含む化石燃料の輸出でGDPの半分を稼いでいる。とくに欧州は、石油の27%、天然ガスの44%、石炭の47%をロシアから輸入している(数字はいずれも2020年、図1)。
ロシア侵略以前の昨年秋から、すでに英国や欧州発の「石油危機」が伝えられるほど原油やガス価格が高騰していたところに、今回のロシア侵略が発生し、経済制裁とエネルギー安全保障面から、石油と天然ガスの脱ロシア化は待ったなしとなった。もちろん、容易ではない。
EUは、5年以内に化石燃料輸入の脱ロシア化を図る「REPowerEU計画」をいち早く3月8日発表した(注1)
特に天然ガスについては、REPowerEU計画ではロシアからの輸入を年内に3分の1に減らすとしている(図2)。
図1 欧州連合(EU)の天然ガス需給とロシアへの依存度 図2 欧州連合(EU)のREPowerEU計画
中でも、ロシアへのガス依存度の高いドイツは、「再生可能エネルギーは『自由へのエネルギー』だ!」(クリスティアン・リントナー独財務大臣 注1)との認識を示し、ロシアへの化石燃料依存を脱却するために「再生可能エネルギー100%を2035年に前倒しする」と宣言した。
また、原子力について、石油や天然ガスの高騰に対して、日本でも「早期に原発を再稼働すべきだ」との声が上がっている。欧州でも、ドイツなどの脱原発の時期が早すぎたのではないかとの声が出ている。これに対して、ロベルト・ハーベック経済・気候相(緑の党)が「原子力に関する誤った議論にこの状況を利用するな」とも述べている(3月8日 注2)。ドイツが厳しいのは来年の冬の暖房・給湯のための天然ガス需給なのであり、原発は何の役にも立たないと切って捨てたのだ。これでドイツは、予定どおり、今年中に最後の3基となる原発を計画通りに閉鎖し、原発はゼロとなることが確定した。
実際に、ウクライナ侵攻でロシア軍は、廃炉作業中のチェルノブイリ原発を早々に占拠しただけでなく、稼働中だったザポリージャ原発(6GW)を砲撃し、占拠した。従来、批判的に語られるだけだった原発攻撃のリスクが、現実のものとなった瞬間だった。稼働中の原発への攻撃は、原発の安全設計では想定されておらず、原子炉本体や使用済み核燃料貯蔵プールが破壊すればただちにチェルノブイリ原発事故の何倍もの規模の大惨事につながる。また、稼働中の原発は、福島第一原発で経験したとおり、電源喪失するだけでも大惨事につながる。この攻撃を目撃しながら、原発再稼働を語る人間は、間違いなく思考停止している。仮に責任ある立場であれば、無責任のそしりは免れないだろう。
飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ
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