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- RE100から遠ざかる岸田政権
2021.11.25
英国で開催された気候サミット(COP26)に向けて、世界中で気候危機への対応を加速させようと躍起になっている中、日本では岸田文雄政権が誕生し、解散総選挙が行われた。岸田総理は「気候変動が人間の影響かどうか検証が必要」と疑問を呈し、麻生太郎副総理は「温暖化で北海道の米が美味しくなった」と非常識な見解を述べて批判を浴びた。この岸田政権のもとで日本のエネルギー政策はどうなるのか。
9月に行われた自民党総裁選では、岸田前政務調査会長、河野太郎前行政改革大臣氏、高市早苗氏、野田聖子氏の4氏が争い、決選投票の結果、岸田氏が、国民や地方で人気の高い河野氏を抑えて新しい総裁に選出され、その後の国会での総理指名選挙を経て第100代内閣総理大臣に就任した。
菅義偉前政権の末期は、コロナ対策や東京五輪強行などで内閣支持率や自民党支持率が低迷していた。その後、菅前総理の辞任とそれに続く自民党総裁選、総理交代で支持率は回復した。その勢いを駆って、岸田総理はすぐさま衆議院解散総選挙に臨んだ。その結果、自民党単独過半数を維持でき、与党は事前の予想よりも「負けなかった」ため、岸田政権はしばらく安泰となる。その気候エネルギー政策はどうなるか、そのカギは総裁選から予想できる。
自民党総裁選は、実質的に、岸田氏を支えた安倍晋三元総理と河野氏との権力闘争だったが、原子力や電力エネルギーの側面からは、既得権益と改革派とのバトルでもあった。河野太郎氏はこの1年間、行革大臣として自然エネルギーを進めるための様々な規制改革を進めようとイニシアチブを発揮してきた。しかし総裁選に敗れ去り河野氏が閑職に追いやられたことで、自然エネルギー拡大やエネルギー改革は棚上げされる。その代わりに、安倍元総理のもとで原子力推進の司令塔だった官邸官僚が戻り、従来の「旧い原発・エネルギー・気候政策」が続くことが予想される。
すでにもっとも低コストになった太陽光発電は、素早い導入が可能なこともあって世界的には脱炭素の1丁目1番地だ。アメリカや中国、ドイツなど世界の主要国は、2030年までに従来の導入量の3倍から5倍の規模の導入を計画している。ところが日本は、脱炭素やエネルギー転換ですでに世界から遅れを取っており、本来なら自然エネルギー(とくに太陽光発電と風力発電)普及のアクセルを踏まなければならない時に、逆に急ブレーキを踏もうとしている。
日本の2020年度の太陽光発電の新設は、これまでの認定の「在庫」があったおかげで500万kW規模・累積で6500万kWとなり、累積だけで言えば、中国(2億5千万kW)、米国(1億kW)に次ぐ世界第3位だった。しかし、2020年度の太陽光発電の新規認定は90万kWまで低下した。新規認定がここまで低い水準が続けば、遅かれ早かれ、年間導入量も100万kWを切ることは避けられず、2030年までに1000万kWしか増えない計算となる。そのため10月29日に開催された調達価格算定委員会で、太陽光発電協会が「日本の太陽光発電産業は危機的状況だ」と訴えたほどだ。
日本では、再エネを抑制する代わりに、既存の電力会社秩序が維持され、石炭火力発電廃止という世界の潮流に反して維持・新設され、原発も国民世論に反して再稼働の圧力が増すだろう。加えて、欧州・米国・中国で一気に進み始めた電気自動車への移行(EV化)も、日本はただでさえ周回遅れで取り残され、日本の自動車産業にも陰りが見えてくる恐れがある。
岸田総理は、主要国の首脳がすべて参加する英国気候サミットにはかろうじて出席したが、自ら進めようとするエネルギー政策や気候政策が後ろ向きなものばかりであるため、何ら存在感も役割も果たすことができなかった。
飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ
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