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- RE100と気候変動の歴史
2021.10.25
2021年10月31日から11月12日にかけて、英国・グラスゴーで「第26回国連気候変動枠組条約締約国会議」(COP26)が開催される。COP26に向け各国が相次いで温室効果ガスの新たな排出削減目標を表明するなど、パリ協定の目標達成にむけて世界の動きが加速し、その動向はメディアでも頻繁に取り上げられている。8月には、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書」が公表され、「人間活動が温暖化の主因であることは疑う余地がない」と断定した。
ところで、気候変動が国際政治の重要なテーマに上った1990年代からずっと、その達成手段を巡る論争が繰り広げられてきた。1つの軸は、言うまでもなく原発だ。当時、電力自由化やチェルノブイリ原発事故の影響などもあって、原発は停滞していたが、そこに「都合の良い口実」として気候変動問題が飛び込んできた。これがそれぞれの地域で問題を複雑にしてきたのだが、今回も、ビル・ゲイツが提唱する「小型原発」が米国でも欧州でもそして日本でも建設的な議論の攪乱要因となっている。先の自民党総裁選で、岸田氏や高市氏が小型原発を取り上げたことも記憶に新しい。現実には、原発を新規に拡大することは、電力供給の手段として経済的でないだけでなく、気候変動対応としても、およそ間に合わない。
もう一つは、炭素を直接回収して隔離する「炭素回収貯留」(CCU)、最近では再利用(Utilization)を含めてCCUSと呼ぶことが多い技術だ。このCCUSは、日本でも熱心に研究開発を進めてきたが、現在、世界で実用化されているCCU/CCUSはおよそ30箇所しかなく、その大半は石油や天然ガスの回収を増やすための再注入に利用されている。本来の意味の「炭素隔離」ではなく、むしろ炭素を増やすことに繋がる。これも、そろそろ現実的に考えて、気候変動の選択肢としては当てにしない方が良い。
そして、再生可能エネルギーだ。あらためて歴史を振り返ると、気候変動の歴史で、再生可能エネルギーはほとんど期待されてこなかった。ほんの12年前の2009年にデンマーク・コペンハーゲンで開催されたCOP15は、世界1位と2位(当時)の経済大国で、しかも気候変動政治の「問題児」とされてきたアメリカと日本で政権交替が起きて、アメリカではオバマ大統領、日本では鳩山民主党政権と、いずれも気候変動に積極的な姿勢の政治に変わった。そのためCOP15では、京都議定書の次の新しい条約と野心的な目標が合意されると世界中で期待が高まったが、残念ながら期待外れに終わった。他方、2015年のCOP21では、オバマ大統領は完全にレイムダック化し、日本では気候変動に懐疑的な安倍政権であったにも関わらず、画期的な合意が行われた。
なぜか。2009年のCOP15の時点では、再生可能エネルギー、とくに太陽光発電と風力発電が合計で世界の電力のわずかに1%と、およそ現実的な選択肢ではなかったのに対して、2015年にはいずれも急拡大して、「再生可能エネルギー100%」、すなわちRE100が現実的な方向性として見えてきたことが、最大の要因である。実際に、グローバル企業がこぞって参加するRE100の運動が生まれたのも、直前の2014年だった。
気候変動問題は、気候危機と呼ばれるほど危機的な問題だが、これに対して、歴史的な偶然だが、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーと蓄電池、そして電気自動車(EV)化などが、予想を超える勢いで拡大しており、これらは気候危機に対する、ほぼ唯一の希望なのである。
飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ
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