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飯田哲也「RE100への途」

生成AIとエネルギーの今後

2024.08.30

 「第7次エネルギー基本計画」の議論でも、生成AIやデータセンタによる電力需要が大きな論点になっている。自民党総裁選に出馬した河野太郎議員が「生成AIやデータセンタの電力需要増に対応して最大限供給するため、水素やアンモニア、核融合や、原発建替なども選択肢としてある」と述べたことが話題になっている。その発言の是非はともあれ、生成AIやデータセンターでどの程度の需要増が見込めるか、ざっと眺めてみたい。
 

■さまざまな見通し

経産省でも、最も重要な論点と考えているようで、第2回の「第7次エネルギー基本計画」の議論で「電力需要について」と題する事務局資料で、生成AIブームに伴う国内外のさまざまな電力需要予測を取り上げている(注1)。これによれば、IEAでは、世界のデータセンター電力需要が現状(2022年)の2%から2026年に倍増(4%)すると評価している。

生成AIの本家である米国では、米電力研究所(EPRI)によれば、2030年に米国の電力の4.6%~9.1%を占めると予測している(図3、注2)。

 

 

注1【出典】経済産業省(2024年6月6日)「電力需要について」第 56 回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会

注2 EPRI, May 28, 2024, "Powering Intelligence: Analyzing Artificial Intelligence and Data Center Energy Consumption"
https://www.epri.com/research/products/000000003002028905

 また、元OpenAIのLeopold Aschenbrenner氏の最新エッセイ(June 2024、注3)では2030年に現状の米国の電力需要総量に匹敵する(すなわち倍増する)という予測もある(図4)。


図4 元OpenAIのLeopold Aschenbrenner氏による生成AIの電力需要予測

国内では、上記経産省事務局資料にて、科学技術振興機構(JST)によるデータセンタ等の需要予測といくつかの国内研究機関等の国内電力需要予測を整理している(図5)。JSTの予測は、極めて大きなバラツキがあるが、国内電力需要予測の方はそれほどでもない。実際に、現状のペースでは2030年さえ確からしい見通しができないなか、2040年やましてや2050年はほとんど信頼に値しない数字と見た方がよいだろう。

 

■生成AIの技術進歩のスピード(AIと省エネの両面)

観点を変えて、生成AIの技術進歩や普及のスピードはどうか。AIと省エネの両面でみてみよう。生成AIの普及のスピードはいうまでもなく脅威的だ。新規のデータセンター建設に加えて、既存のデータセンターもすべて生成AIに代わるとみられている。

[1] Leopold Aschenbrenner, June 2024, “SITUATIONAL AWARENESS: The Decade Ahead”
https://situational-awareness.ai

 

同時に、生成AIの中心にあるNVIDIAは、過去8年でエネルギー効率の45,000倍の向上を実現しており、次のNVIDIAのGPUアーキテクチャであるBlackwellは、現状よりも20倍高いエネルギー効率を提供していると報告している(注4)。NVIDIA代表のJen-Hsun Huangも、「加速コンピューティング技術は、わずか3倍の消費電力と1.5倍のコストで100倍のレート増加を達成」と述べている(注5)。

AIに関しても、現在の主流であるGPU(画像処理半導体)は、必ずしも生成AIの活用に関して利用効率もエネルギー効率も高くなく、さまざまなエネルギー効率方法が開発されつつある(注6)。とくに、現在、AI関連処理を、より高速、高効率、低コストで実行するための半導体チップ(AIチップ)開発が進められている。具体的には、現在の主流であるGPUではなく、IMC(In Memory Computing)チップと呼ばれる新しいチップであり、演算能力の向上と消費電力の削減の両方に大きな効果が期待されている。
 

■もう一つの重要な考慮要素

  以上から、カンブリア紀と喩えられる生成AIの爆発的な拡大による電力需要の拡大は間違いないとはいえ、同時に進展する省エネ技術(エネルギー効率的なチップ開発を含む)という不確実性のために、懸念されるほどの拡大がない可能性がある。ここは、予測できない領域と考えた方がよい。

  しかし、同時に考えるべきもう一つの重要な要素がある。生成AIの電力需要増が生じるとして、これを何によってカバーすべきか、そしてカバーできるかという論点である。国は、生成AIの電力需要増を「第7次エネルギー基本計画」の議論で原子力推進の論拠に使おうとしているフシがある。ところが、原発の新設や立替はあまりに時間が掛かるので、到底、間に合わないのだ。しかも、コストが異常に高く、遅かれ早かれ発生しうる東南海地震等の巨大地震に襲われた場合には、運良く安全に停止できたとしても、再稼働原発も含めて長期間の停止を余儀なくされるため、電力供給に大きな欠損を生じる。

  他方、再生可能エネルギー、特に太陽光発電と風力発電は、極めて短期間で拡大することが可能であり、コストも蓄電池とともに急速に下がっている。小規模分散型であることから、地震や暴風雨等の災害に襲われても、電力供給に与える被害は全体から見れば、ほとんど無視しうる。

 

注4 Light Bulb Moment: NVIDIA CEO Sees Bright Future for AI-Powered Electric Grid (June 18, 2024)  https://resources.nvidia.com/en-us-sustainable-computing/ai-electric-grid-edison?ncid=no-ncid

注6 Energy Efficient AI: The Role of GPUs in Sustainable Computing (Feb 26, 2024) https://medium.com/@GPUnet/energy-efficient-ai-the-role-of-gpus-in-sustainable-computing-19302e23b4ff

 

 やはり、RE100に全力で挑戦することが、確実な道のりであることが分かる。

 

 

 


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