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飯田哲也「RE100への途」

「エネルギー基本計画」とは何か

2024.07.30

「第7次エネルギー基本計画」の議論が始まっている。これを機に、そもそも「エネルギー基本計画」とは何か、概観しておく。

■「原子力促進法案」から「エネルギー一家の掛け軸」へ

最初のきっかけは、1990年代末から専門家やNGOと連携した超党派議員連盟で盛り上がった自然エネルギー促進法議員立法運動(これは10年後に2011年の固定価格買取制度FITとして成案)である。その「議員立法」に触発された自民党の電力総連出身の原発族議員が、「原発促進法」を作りたいと考えた。

当時は、1997年から始まった電力自由化論議がさかんで、原発推進と電力独占維持のための法案にしたいと考えた。こうして2000年頃から自民党で「原子力促進法」議員立法の動きが始まり、経産省は警戒した。ところが族議員だけで議員立法は出来ず、経産省が自民党から立法主導権を取り戻して「行政立法」とし、「エネルギー政策基本法」(2002年成立)となった。

これは、発議した電力族議員にとっては原発推進と電力独占維持を目的に掲げる立法となり、経産省にとっては、それ以前の「エネルギー需給見通し」の上位に据え、その後にと「原子力開発利用長期計画」も包含した大義名分(「エネルギー一家の掛け軸」)となり、双方にとって満足できる結論となった[注1]。

■政治に翻弄された歴史と311福島第一原発事故

 下表に示すとおり、同法に基づく「エネルギー基本計画」は、良くも悪しくも政治に翻弄されてきた。「第2次」(2007年3月策定)は、自民党・経産省・東電・福島県からすべて異論が出た核燃料サイクル問題を「鎮圧」し、代わりに「原子力立国計画」を定めた上で、ようやく策定された。

民主党政権に代わった以後に策定された「第3次」(2010年6月策定)は、従前と変わらない原子力立国計画そのままの内容であったことが「エネルギー一家」の盤石ぶりを裏付けていたとともに、翌春に311福島第一原発事故が発災したことが歴史の皮肉とも言える。

その事故後に始まった「第4次」(2014年6月策定)は、本来、脱原発を定めるはずが、途中で安倍晋三自民党政権に交替し、委員も半数が入替となり、「重要なベースロード電源」という詭弁でくるんで原発維持へと舵を切り替えた。

その後、内容は見るべきものがないものの、「第5次」(2018年7月策定)では「再エネ主力電源化」、「第6次」(2021年7月策定)では「再エネ最優先原則」と「柔軟性」が書き込まれたことは、特筆に値する。特に「第6次」では、河野太郎行革大臣と小泉進次郎環境大臣が「そのキーワードが書かれないと閣議決定で署名しない」と頑張ったことが伝えられている。

■第6次からGX、そして第7次へ

  「第6次」は、河野太郎氏と総裁選を争った岸田文雄首相が就任直後に閣議決定したものだが、その内容はすでに菅義偉前政権で確定したものであった。そこには、「原発新増設が書き込まれなかった」ことも、目立たない「事件」であった。

そのため、岸田政権は官邸に「GX実行会議」を新たに設けて、「第6次」を上書きする作業を開始した。折しも、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギーコストが急騰したことを利用して、岸田政権はエネルギー危機を過剰に喧伝し、GX実行会議を舞台に原発推進へと舵を切った。その結果、GX実行会議では、原発再稼働や寿命延長、新増設、小型原発や核融合まで「原発全部盛り」となった。そのGX実行会議で今年5月13日の事実上の「中間答申」を受けて、5月15日に議論を開始したのが「第7次エネルギー基本計画」なのである。つまり、すでに内容の大筋は定まっていると見た方がよい[注2]。

■エネルギー政策のアップグレードの必要性

  世界は再エネ100%へ疾走しているが、日本では以上のとおり、旧い考えで覆われた「エネルギー一家」が、原子力中心・化石燃料維持の「掛け軸」をそのまま上書きしようとしており、あまりにも世界の方向性とかけ離れている。

既存の原子力は老朽化が進み、福島原発の廃炉はめどが立たない状況にある。新規の原発を作ろうにも費用も時間も過剰に要し、核廃棄物処分や地震・事故への対応もほとんど進んでいない。現実を直視すれば、原発はエネルギー問題の解決策ではなく、それ自体が「大きな問題」なのである。

円安も進む中、化石燃料を25兆円(2023年度)も輸入している日本こそ、再エネに全力疾走する必要がある国であるが、日本の国家の中枢を占める「エネルギー一家」の人たちには、原発に固執するがあまり、本当の危機が見えてないようだ。エネルギー政策の内容もそれを策定する体制やプロセスも、次のステージへとアップグレードする必要がある。

 


[注1]「エネルギー一家」は、吉岡斉が「脱原子力国家への道」(岩波書店、2012年)などで喝破した表現である。

[注2] 第11回GX実行会議(2024年5月13日)資料1「我が国のグリーントランスフォーメーションの加速に向けて(齋藤GX実行推進担当大臣兼経済産業大臣提出資料)」

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai11/index.html


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