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- 再エネ拡大を抑止する日本社会の「慣性力」
2024.06.30
「太陽光と風力の普及は電源全体の5割まで」という話を聞くことがある。つい最近も、再エネ普及に熱心な国会議員から聞いたばかりだ。その理由を聞くと「慣性力の制約があるからだ」ということらしい。
◼️「慣性力の制約」という風評
「太陽光と風力の普及は電源全体の5割まで」という話を聞くことがある。つい最近も、再エネ普及に熱心な国会議員から聞いたばかりだ。その理由を聞くと「慣性力の制約があるからだ」ということらしい。
たとえば、電気事業連合会のサイト[※1]では「再エネの比率が過度に高くなると、電力系統が不安定になり、停電リスクが高まる恐れがある」と確かに書いてある。その理由を見ると「太陽光発電や風力発電は慣性力や同期化力を持たない「非同期電源」は直流から交流への変換に電子機器を使用しますが、周波数の変動が一定の幅を超えると、この電子機器を守るために電力系統から離脱するという特性がある」(筆者が一部要約)ということらしい。祖の図も以下に掲げておく。
◼️南オーストラリアでの革新
では、太陽光発電と風力発電普及の世界最先端の地である南オーストラリア州ではどうか。すでに年間で80%を越え、数日間で見ると100%に達する日が続くこともある(図)。需給調整の主役は、連系系統を用いた「移出入」だが、蓄電池も有意な貢献をしていることが分かる。
※1電気事業連合会 2023年12月「安定供給に欠かせない火力発電脱炭素との両立を」 https://www.fepc.or.jp/enelog/focus/vol_61.html
南オーストラリア州では、2016年9月に暴風雨で他州との連系送電線が破損したために発生した全州停電に対して、その停電対策の一環として、おそらく世界初の巨大系統蓄電池「ホーンズデール蓄電所、通称ザ・ビッグバッテリー」を2017年12月に導入した[※2]。テスラ社のイーロン・マスクが「半年で完成しなかったら無償提供する」と啖呵を切り、見事に半年で完成させたもので、所有と運営はNeoen社で、完成当時は100MW・129MWhという規模で初期投資約75億円規模(約6万円/kWh)だった。これが翌年から周波数調整で大活躍し、従来の天然ガス火力と比べて、およそ年30億円の周波数調整費用を節約したと報告されており、実に投資回収2年半という成果をあげた。
その後、2020年9月に150MW・193.5MWhへと増強され、約2年間の試験とテストの後、2022年7月には世界で初めて、オーストラリアのエネルギー市場オペレーター(AEMO)からオーストラリアの国家電力市場に対して慣性サービスを提供する承認を得ている[※3]。具体的には「GFM機能」(グリッドフォーミング)を持ったインバータを設置することで、デジタル技術を用いて疑似的に慣性力を提供できるようにしたのだ。
◼️振り返って日本で見えてくる「真の制約」
公平を期して言えば、日本でも経産省の審議会や電力広域的運営推進機関では、インバータや蓄電池による慣性サービスの提供の検討は始まっているものの、いかにもスピードが遅く、現実的な適用の見通しは立っていない。
そうしたなかで、「慣性力の制約で太陽光と風力の普及は電源全体の5割まで」という言葉だけが一人歩きする。専門家しか理解できない「慣性力」という言葉がマジックワードとなり、一般市民はもちろん、国会議員やメディアもそれ以上、突っ込めないのだ。
しかし、一人歩きする「慣性力」という用語があぶり出しているのは、日本のデジタル敗戦の現実であり、再エネ抑制のために奔走する既得権益やそれに協力する「専門家」である。そうした「慣性力」そのものが、日本を旧態依然たる状況に留めているのではないか。
※2 Hornsdale Power Reserve – South Australia's Big Battery https://hornsdalepowerreserve.com.au
※3 “Neoen and Tesla deliver innovative inertia services at Hornsdale Power Reserve big battery in Australia” July 2022 https://neoen.com/en/innovations/neoen-tesla-deliver-innovative-inertia-services-hornsdale-power-reserve-big-battery-australia/
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