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飯田哲也「RE100への途」

菅新総理の所信表明演説「2050年カーボンゼロ」に向けて必要なこと

2020.11.05

菅義偉新総理が、所信表明演説(注1)で「2050年までに温室効果ガスを実質ゼロ」と、これまでの政府方針から一歩踏み込んだ発言をした。果たして、菅総理の所信表明演説「2050年カーボンゼロ」は再生可能エネルギー100%(RE100)の実現に期待できるか。

菅総理の所信表明演説では、日本のエネルギー政治史上、初めて「2050年炭素中立のグリーン社会の実現」を宣言した。これが額面どおりなら、大いに歓迎したい。だが、所信表明をよく読むと「安全最優先で原子力政策を進める」「カーボンリサイクル」という微妙な言葉がある。カーボンリサイクルとは、石炭火力から二酸化炭素を回収して、地中に貯留したり別の用途に「リサイクル」すると言う意味で、およそ経済性もなく、それ以前に実現性もない「妄想技術」といってよいのだが、所信表明演説に盛り込まれたのは、原発と石炭は使い続けるという意味に受け取れる。

所信表明に先立つ10月半ばに、3年に一度、改訂されるエネルギー基本計画の見直しを議論する国の審議会が開催された(注2)。そこでは、原子力推進・石炭維持・再エネ不安定を主張する審議会委員の声ばかりが目立っており、エネルギー基本計画の改訂にも疑問符が付く。所信表明演説と合わせて考えると、結局、原発と石炭を中心とする考えが、全く変わっていないのだ。

目を世界に転じると、太陽光と風力、そして蓄電池という3つの分散エネルギー技術による、人類史的なエネルギー大転換が進行中である。従来、原発や石炭にこだわってきたエネルギーの専門家や政策当事者、エネルギー産業界のほとんどが、これまでの10年間で、エネルギーに対する認識を180度転換し、彼らが分散エネルギー革命にこぞって参入しつつある。おそらくこれからの10年は、そのエネルギー大転換が現実に起きる時期となることは間違いない。

国際再生可能エネルギー機関による「新しいエネルギー地政学」(注3)によれば、今後は再生可能エネルギーの技術と市場を持つ国が影響力を持つと指摘する。本来なら日本は、今後の「新しいエネルギー地政学」において、最も優位な立場にあるはずだが、それに背を向けているようにしか見えない。

冒頭の所信表明演説に戻ると、唯一の期待は、「規制改革などの政策を総動員して脱炭素を実現」と述べているところだ。これに河野太郎行政改革大臣が呼応して、さっそく再生可能エネルギー普及のための規制改革に着手している。菅新政権の「一丁目一番地」は、携帯電話値下げでもデジタル庁でもなく、この「2050年カーボンゼロ」であり、その成否は河野太郎大臣次第と言ってもよいだろう。


1.https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html

2.総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第32回会合)(令和2年10月13日(火))
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/032/
3.IRENA “A New World: The Geopolitics of the Energy Transformation” Jan.2019 https://www.irena.org/publications/2019/Jan/A-New-World-The-Geopolitics-of-the-Energy-Transformation

 


 

飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー 

国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生。


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