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飯田哲也「RE100への途」

営農型太陽光発電の時代

2023.02.28

農地での再エネ利用は、世界的に関心が急速に高まっている。原生自然ではなく既に人の手が入っていること、土地を立体的に利用できること、膨大なポテンシャルがあることから、太陽光や風力を立地する上で優先すべき土地だからだ。

風力が「膨大な土地を必要とする」という批判は的外れで、利用するのはタワーの基礎のみだ。したがって風力発電は農業と共存しうるとして、デンマークなど欧州では、早くから農地での優先的な利用が行われてきた。しかし日本は事実上、農地への風力の立地を禁止しており、ナンセンスである。

その後に普及してきた太陽光は土地を広範に占有するため、世界的にも農地での利用は限定的だった。しかし、植物の光合成における「光飽和点」を長島彬博士が2000年代初頭に提唱、実験を重ねた。植物は光が多ければ良いわけではなく、一定以上の光を必要としない水準があり、それを太陽光に利用する考えだ。むしろ、一定の遮光のメリット(作物の日焼け、土壌の保湿、放射冷却の防止、農作業環境の緩和など)の理解も進んだ。

その後、さまざまな形態(藤棚型、垂直型、花びら型、温室利用、駆動式など)や太陽光パネル(細型、両面発電、光透過型、薄膜型など)の技術進展と低コスト化が進むと同時に、農作物や土壌への影響についても研究が進み、影響を緩和もしくは改善できる場合があることの理解が進んできたことで、営農ソーラーへの関心と利用が国内外で急速に広がってきた。中でも日本は、営農ソーラーの実践では先駆者だ。長島博士の実験に始まり、12年のFIT導入と13年の農水省通達で一気に広がった(図)。

中国では、2014年から営農ソーラーの普及が始まり、18年までに14GWもの設置を越えた。欧州や米国、韓国、台湾などでも研究と実践が急速に広がってきている。国連でも、クリーンエネルギー・食料生産・水(灌漑)・仕事・地域経済を同時に生み出せる営農ソーラーは、途上国支援の柱になり得ると重視しはじめた。

ここに来て、政策カオスによる太陽光市場崩壊と相まって、営農ソーラーも停滞気味となっている。日本は営農ソーラーの先駆者でありながら、農業全体から見れば太陽光を「異物視」している。特に、農水省13年通達では、長期間にわたって一定の収量の営農継続を義務づけており、これが高いハードルになっている。農業全体が衰退するなか、20年もの長期にわたって高い収量を義務づけることは「ムリゲー」でしかない。欧州で検討されているように、農業設備としての技術基準への見直しが必要である。

  営農ソーラーを「異物視」せずに農業設備と再定義することで、灌漑水ポンプや電柵の電源、ハウスの空調、いずれはEVトラクター充電などにも使え、農村電化と脱炭素に貢献する。売電も含めて農業所得とすることで、戸別所得補償に変わる農家の基礎収入を支えることができるため、農業経営の持続性や新規就農への期待などを通して、自給率の低い日本の食料生産を回復する起爆剤にもなりうる。

  再エネ事業環境が厳しくなるなか、福島でも千葉でも静岡でも山口でも、そして日本中で、地元の先駆的な農家が中心となって様々な営農ソーラーが取り組まれている。こうした地域参加型の営農ソーラーこそが、ソーラーシェアリングの王道である。その支援を手厚くしつつ、再エネの「政策カオス」を解消し、電力市場の歪みを整える政策の見直しが待ったなしである。

 

飯田哲也 環境エネルギー政策研究所 所長

 

 

 


 

飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー 
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ

 

 

 

 


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